2児の年子をもつ新米数学者によるドタバタ育児日記

就職初年度で早くも2児の親になりました.予測不可能な人生って楽しいですね.

下の子かわいくない症候群(3)

前回(下の子かわいくない症候群(2))からの続き:

chisuke0831.hatenablog.com

「なんてことを言ってしまったんだ...」と後悔した.
妻に,より一層の負担を強いることになるのではないかと不安がよぎったからだ.
ところが,妻からの返事は意外なものだった.

「実は,私も下の子が可愛くなかった.今は少し可愛く見えるようになってきた.」

どうやら上の子だけでも大変で,しかも上の子が赤ちゃんだった頃よりも手が掛かるため,あんまり可愛く思えていなかったらしい(後で妻からの訂正が入るかもしれません...).
私だけでなく,まさか妻も同じように感じていたとは思わなかった.
日頃の接し方を見ている限り,とてもそんな風には見えなかった.
しかし,夜泣き対応の時には,口が粗くなったり,あやうく手が出るんじゃないか,ということもあったらしい.

私は,なぜ下の子がかわいく見えなくなってしまったのか,その原因を自分なりに考え,正直に妻へ告白した.
その内容を,この記事に纏めようと思う.

 

最大の原因

仕事と育児の両立が極めて困難になってしまったことが原因である.
これは,現在我々を巡る新型コロナに起因する影響と,研究者に独特の事情とが混ざり合った結果だと考える.

 

新型コロナによる影響について

政府が推奨するように,在宅勤務をしている方は多くおられると思うが,私もその一人である.
在宅勤務をしながらの育児というものを想像していただきたいのだが,基本的に仕事の進捗は皆無である.
何故ならば,以前の「下の子かわいくない症候群(1)」でも述べたように,彼らは私たち親が嫌がること全てを実行してくる.

  • お茶をくれと言うから渡してみれば,全てを床にぶちまけたり(しかも自分で滑って転んで泣いたりするんですよね...).

  • どうにかこうにかベビーサークルを越えて,パソコンの外付けハードディスクのコンセントを抜いたり(運良くデータは残っているけれど,挙動はオカシクなりました...).

  • 研究で使用しているノートや計算用紙をぶちまけたり破ったり(おかげで計算結果がゴミ箱に消えました...).

  • 万年筆を壊したり(結局,修理費用は元値の半額以上になってしまった...).

  • 本をぐしゃぐしゃにしたり(買ったばかりの本をやられると心にきます...).

  • Zoom会議をしようにも,わざとサークルを大きく揺らして騒音をたてたり号泣してみたり(時間を合わせて研究打ち合わせをしようにも結局あまり進まず,とても申し訳ない気持ちになります...).

挙げてみればキリがないほどに,日々,子どもとの一進一退の攻防戦を繰り広げているのである.
仕事時間を作れるとすれば,上の子が昼寝中の時間くらいなものだが,それも1時間程度である.
その間に研究を進めようにも,

「あれ?この前,何の計算してたんだっけ?ん?なんだこの計算用紙.誰が計算したんだ?」

なんて始末.

安月給な私は,書斎部屋など持ち合わせていない.
常に子どもが視界におり,子どもの影響を受けながら仕事に取り組まなければならない.
もちろん私の怠慢で,睡眠時間を削れば仕事に回せるかもしれないが,真っ暗の中で計算するわけにもいかず,電気をつけようもんなら下の子からの夜泣きを食らう.
そんな環境の中で,仕事などできるはずもなかった.

 

研究者に独特な事情について

独特の事情をお伝えする前に,大学への就職について簡単に触れさせていただきたい.
普通,博士学位を取った後,「ポスドク」という身分になることが多い.
これは教員ではなく,研究員という位置付けである.
契約は基本的に単年度で,最大2〜3年まで再任されることが多い.
ポスドクの次のステップが「助教」という大学教員の職である.
大学によって異なるが,1〜10年程度の幅で任期付きの場合が多い.
そして,助教の次のステップが,いわゆる「大学の先生」であり,任期無し(パーマネント)の「講師,准教授,教授」を指すと思う.

さて,何が言いたいかと言うと,パーマネントの職を得るまでは,常に後がない状態の中で研究活動を続けなければならないのである.
もちろん研究だけでなく,大学運営や教育活動,学会運営等にも携わらなければならないし,次の職場を得るためには,こうしたことに並行して大学の求人に応募し続けなければならない.
任期期間中に良質な研究成果を多く挙げ,教育経験を積むことで,ようやく任期無しの職へ挑戦できる土俵に上がれるのである.
もちろん,任期付きの職を転々とすることで生きながらえることもできるが,それを何回も繰り返してはいられない.
いずれにせよ,周りの超優秀な奴らではなく,「私」が選ばれなければ,未来はない.
そして,そうでなければ家族を養うことはできない.
こうしたプレッシャーが常にのし掛かっているからか,研究について考えない時間は無い.
無意識に計算をしているし,そうでもなければ論文執筆や学会発表で周りから遅れをとってしまう.
任期切れが迫っている以上,研究活動のスピードを落とすわけにはいかないのである.
その上,たとえ育休を取得したとしても,任期が伸びるわけではないし,研究が滞っていることを配慮してくれるわけでもない.

私は,育児と研究のバランス感覚を失い,一人で思いつめていた.

 

 

やっぱり次に続きます.

これで最後です:

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下の子かわいくない症候群(2)

前回(下の子かわいくない症候群(1))からの続き:

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自身が下の子をかわいくないと自覚するまで,そして自覚したときのことを書き残しておきます.

 

自覚するまで

自身が所謂「下の子かわいくない症候群」にかかっていると自覚したのは,我が家に赤ちゃんが来てから一ヶ月ほど経った頃,三日連続で夜泣き対応をしたときだと思う.

新たな家族の一員として赤ちゃんを迎え入れてから数日の間は

「あの頃の夜泣きをまた耐えなきゃいけないのかぁ.でも赤ちゃんは可愛い!辛いけど頑張ろう!(ワクワク)」

と張り切っていた.
けれど,世話をすればするほど

「あれ?何か違う....一人目の時と何かが違う....」

と違和感を抱く.
そしていつの間にか

「こいつ煩わしいな.泣かれる度にイライラする.」

なんてことを思うようになっていた.
だけど,そんなことを口に出せる訳もなければ,自分よりも赤ちゃんの世話をしている妻に伝える訳にもいかず.

「自分,オカシクなってしまったのか!?何なんだ!?訳わからんぞ!?上の子はこんなにも可愛いのに!!本当の自分はこんな人間だったのか...???」

と混乱しながらも,赤ちゃんと向き合う毎日.
いや,今思えばちゃんとは向き合えていなかったろうし,向き合う気力さえ無かった気がする.

そして,ハッキリと下の子をかわいくないと自覚した日が訪れた.
我が家に赤ちゃんを迎え入れて約一ヶ月後,連続で夜泣き対応をした三日目の深夜のことである.

 

自覚したとき

何をしても泣き止まない.
ミルクをあげようにも,飲まずに吐き出される.
オムツは既に交換済み.
そもそもさっきの交換で下痢をお見舞いされたばかり.
抱っこしても,まるで拒絶するかのように,激しく頭や腕,足を動かされる.
最初の頃は

「一人目と比べれば全然耳にこないねー!」

なんて妻と笑い合っていたはずの夜泣きの声が,頭に猛烈に鳴り響く.
泣き顔を見れば見るほど,不満を訴えているかのように見えてくる.
必死に文句を垂れているようにも見える.

私は,もう無理だと感じてしまった.
「もう無理だ」という言葉以外に,どんな感情が今の自分に当てはまるのか,冷静に考えるような心のゆとりは無かった.

一体こいつは何が不満なんだ.
こっちは何の仕事もできず,本当に色々な不安と焦りに襲われているのに.
まだ任期付きの職なんだ,研究をし続けて,成果を出して次の就職先を見つけなければ,家族全員が路頭に迷うことになるんだ.
これだけ自分の時間を犠牲にして世話しているのに.
なのに何故お前はそんな軽々しく泣ける.
何故そんな嫌そうな顔をして大声出して泣ける.
毎日どんな思いで必死に生きて働いているのか分からないくせに.
お前は寝れて良いよな,それが仕事なんだから.
こっちは寝れないんだよ,寝たくてもお前のせいで.
なぁ,どうすれば良い.
どうすれば満足する.
どうすれば黙ってくれる.
教えてくれよ,頼むから.

不安,焦燥感,やるせなさ,悲しさ,虚しさ,絶望感,その他言語化できないような感情の渦に両足を囚われて,身動きが取れなくなっていた.
負の感情の乱流に飲み込まれて,急に極値へと到達するようだった.
もちろん,自身の状況を客観的に把握できるはずもなかった.

不意にピークが訪れた.
私は,腕で大泣きしている赤ちゃんを布団に放り投げた.
そして赤ちゃんに向かって吐露した.

「もう無理だ,俺にお前の父親なんて.勝手に一人で泣いててくれ.もう知らん,解放してくれ.一体どうすれば良い,何を間違えた.何も分からない.お前のことは何も可愛くない.」

 

自覚したあと

10分程経ってから冷静さを取り戻し,泣き止むことのない赤ちゃんを抱き上げ,「ごめん」の一言と共にベビーベッドに寝かせた.
そして,自己嫌悪と謝罪の念に駆られた.
見た目に怪我は無いとしても,もし頭や脳に問題が起きていたら...

自分は最低な親になりかけているのだと感じた.
こんなことを続けたら,虐待に繋がってしまうかもしれない.
それは絶対にダメだ.
でも,そんなことは自分でもよく分かっている,
分かっちゃいるんだそんな当たり前のことは.

しかし,当時の私は,理性と感情が分断されているようで,もう何をどうすれば良いのか分からなかった.
このやり場のない感情を,一体どう処理すれば良いのか,途方に暮れていた.
本当に苦しかった,辛かった.
家族も友人も知り合いもいない見知らぬ土地で,新型コロナの影響で自宅に籠もりっきり.
仕事をしなければ,研究をしなければと思えば思うほど,泣き声が頭に突き刺さり,本当に,本当にオカシクなりそうだった.

数日後,家族で近くの神社に気分転換として散歩していたとき,意を決して妻に告げた.

「俺,下の子が全然かわいくない.」

 

 

長くなるので,「下の子かわいくない症候群(3)」へ続きます:

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下の子かわいくない症候群(1)

上の子かわいくない症候群

上の子かわいくない症候群」をご存知だろうか.
初耳の方は,試しにこの言葉を検索してみて欲しい.
大量のサイトがヒットする.
それだけ複数の子どもを育てる親にとってはポピュラーな言葉なのだろう.
一般的には,二人目の出産後,上の子が近寄ってきたとき,イライラしたり煩く感じる状況が続くことを言うらしい(以下HP文より一部抜粋).

iko-yo.net

その原因の一つとして,産まれたばかりの赤ちゃんの世話に忙殺されているにも関わらず,多くの家事を上の子に邪魔され,フラストレーションが溜まっていくことにあることが挙げられる.

実際,我が家の1歳9ヶ月児ですら,椅子の上,机の上,ソファの上,ベビーベッドの上など,様々な物の上に登りたがる.
壁に落書きはするし,引き出しから出せる物や手の届く範囲の物は全て手に取り,投げ飛ばす.
出した物は片付けない(そもそも片付けるという概念を知らない)し,ご飯を投げて遊んだり,ウンチを投げようとしたりもする.
着替えさせようとしても拒否されるし,オムツも替えさせてくれない.
お風呂に入れようとしても泣いて拒否するときもあるし,寝るのを嫌がって3時間も寝ぐずったりもする.
寝たかと思えば夜泣きで叫んだりするし,その声でせっかく寝てくれた下の子も共鳴しだすことだってよくある.
ご飯を食べたくてもテーブルの上の物をどかそうとするし,見ているテレビを倒そうともする.
寝ている赤ちゃんの頭の下から枕を奪い取って投げ飛ばしたり,歩きながらオシッコしたりもする.

書き出せばキリがない.
というか,多すぎて思い出せない.
とにかく大人が嫌だと思う限りのことを全てやる.
トイレ,料理,コーヒーの時間なんて満足にとれないし,静かな時間なんて皆無.
一瞬だって気の安まる時間を与えてくれない.

一方,上の子としても,親の邪魔をしたくなる心理があるのだろう.
今まで自分だけが親の愛情を一心に受けていたのに,突然のそれを邪魔する者が現れたと思うのかもしれない.
母親と父親の両方が,見ず知らずの第三者の出現を境に,急に自分を構わなくなる.
そうした事態を何となく感じているのだと思う.
わざと危ないことをすれば構ってくれるし,注意も引ける.
それに味をしめ,エスカレートしていく.
ただでさえ毎日の生活が一杯一杯なのに,上の子が余計なことをすれば,当然親のイライラは募っていく.
場合によっては,赤ちゃん返りが更なるブーストをかけ,自分の子どもにも関わらず可愛く感じなくなるという状況に陥ってしまうのではないかと推察している.

 

下の子かわいくない症候群

さて,長々となってしまったが,表題の「下の子かわいくない症候群」である.
これを検索すると,私の感じる限りでは,上の子かわいくない症候群ほどの検索結果は表示されないように思える.
もしかしたら,あまり一般的なことではないのかもしれない.

既に述べたように,上の子はある程度理解力をもっている(と思い込んでいる)から,「邪魔しないで!」と思ってしまう親の心理がある.
だから,上の子を可愛く見えなくなる瞬間がある.

一方で,下の子が可愛いと思えなくなる親もいる.
私がそれである.
しかしながら,その理由がどこにあるのか.
下の子は上の子とは違って,まだ利口ではない.
だから,何かストレスになることをされても「仕方ないなぁ」で済ますものである.
そもそも,一人では何もできない産まれたばかりのか弱い赤ちゃんを愛おしく思うのが一般的だろう.
にも関わらず,明確に上の子よりも下の子の方が煩わしいと思ってしまう.

これから書く記事は,こうした「下の子かわいくない症候群」への処方箋を述べるものではない.
私自身が,上の子ではなく,下の子を可愛く思えなくなってしまったことについて,自戒の意を込めて記していこうと思う.

 

長くなってしまうので,続きは「下の子かわいくない症候群(2)」:

chisuke0831.hatenablog.com

 

自己紹介

初めてブログというものを始めるので,勝手が良く分からず....
まずは,自己紹介をしておこうと思います.

私は,現在28歳のヒヨッコ数学者です.
昨年の4月までは博士課程に通う大学院生でした.
博士課程というのは聴き馴染みの無い方も多くおられるかもしれませんので,簡単に説明しておきます.

普通,「大学」というと,学部のことを指すことが多いと思います.
標準的には4年制ですね.
学部卒業後,まだ研究や勉学に励みたい人には,大学院への進学が進路の一つとして挙がります.
大学院は,修士課程(2年間)とその後に続く博士課程(3年間)を過ごす機関のことです.
修士課程を修めた学生は「修士(〇〇学)」,博士課程まで修めた学生は「博士(〇〇学)」という学位が授与されます.
博士を得た者は,世間一般で言う「ハカセ」ということになります.
多くの場合,18歳で大学入学,22歳で学部卒となります.
ですので,順調に行けば27歳で博士課程を終えることになります.
私の場合にはちょっぴりおバカさんでしたので,大学入学時に1年浪人したため,28歳で学位を得ました.
ということで,この記事を書いている時点では,私は博士学位を取り立てのピチピチ(?)研究者ということになります.

さて,現在我が家には2人の子どもがおります.
長女が1歳9ヶ月,長男が2ヶ月といった構成です.
長女は,私が学生(博士課程3年目)の時に生まれ,長男は博士修了直前に妊娠が発覚しました.
就職活動や,学位論文の作成,毎日の研究活動で頭が一杯だった頃に授かった二人の命です.
気持ちはもちろん,何もかもが追いつかないまま親という立場になり,分からないことだらけの毎日.
昨日食べた晩ご飯さえ思い出せず,明日の約束すらも頭からすっかり抜け落ちてしまう.
慌ただしく,充実し,しかし深い苦悩に苛まされる育児と仕事との両立生活を忘れぬよう,できる限り新鮮な記憶を書き留めておきたい.
そう思い,筆をとった次第です.